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自由と正義2025年6月号について【懲戒処分分析】

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自由と正義2025年6月号

今月号は、

単位会の懲戒11件

戒告6件
業務停止1月1件
業務停止4月1件
業務停止6月1件
業務停止1年1件
退会命令1件

日弁連に対する異議の申出による処分変更(業務停止2月→3月)

審査請求棄却2件、裁決取消訴訟(棄却)1件

でした。

単位会の懲戒

大阪弁護士会 戒告

  • 被懲戒者の事務所に入所した弁護士に対して、誤字脱字があるごと、メールの送信先に被懲戒者を加えるのを失念するごと等に罰金が発生する制度を導入し、約半年間で656万6000円の罰金を懲戒請求者から収受した

というもの。

かなりのパワハラ案件であるようにみえます。罰金が非常に多額に及んでいますが、報道によると、退所時に全額返金したとのことですので、この量定に収まったものと思われます。

神奈川県弁護士会 戒告

  • 自らが懲戒請求者となってA弁護士に対する懲戒請求をなし、綱紀委員会が懲戒委員会に審査を求めることが相当との議決を行い、被懲戒者に通知されたところ、インターネット上で、自らが事務局となっている団体の投稿を引用する形で、A弁護士の事案の議決結果を紹介し、その後議決書を公開し、被懲戒者とA弁護士が対峙する訴訟において証拠として提出した

というもの。

この件に関するご本人の主張がWeb上で公開されています。

広島弁護士会 戒告

  • 2012年、A社に対する損害賠償請求に関する委任を受け、一定の交渉を行ったものの、A社からの要求に対して追加資料の提供等を行わず、訴えを提起するなどの措置を講ずるべきであったにもかかわらずこれを怠り、2021年、A社に対する損害賠償請求権の消滅時効を完成させた
  • 懲戒請求者に対し、時効で消滅したことを伝えたものの、消滅時効完成時から約5か月間、事件の経過及び結果を報告しなかった

というもの。

事件放置事案です。

神奈川県弁護士会 退会命令

  • 弁護士資格のないAから多重債務者を集めて債務整理事案を処理する形態での法律事務所の経営を打診され、2021年、Aの費用によって用意された事務所に移転し、約2年にわたり、報酬を得る目的であったと認められるAに、自らの名義を貸して、債務整理事件の処理をさせた
  • Aに被懲戒者名義の複数の銀行口座の解説及び管理をさせていたが、被懲戒者は取引内容を把握せず、事務所を閉鎖する際に通帳や記録の引渡を受けていなかった
  • 事務所の業務をA及びAが採用したアルバイトにAの指揮の下に処理させ、依頼者全員とは面談せず、弁護士報酬についての説明には関与せず、委任契約書もAに言われるがまま押印していった
  • 事務所を閉鎖する際、閉鎖に伴う明渡手続きはすべてAが行い、事件記録の保管や廃棄を自ら行わなかった
  • 債務整理を重点的に扱うウェブサイトを開設していたところ、事務所が閉鎖された後も少なくとも5か月間は完全に閉鎖されていなかった

というもの。

非弁提携事務所事案です。

愛知県弁護士会 戒告

  • 2017年12月、法人の破産事件を受任後、債務整理に変更したところ、自ら十分な関与及び確認をすることなく、会社の在庫商品の種類や数量の把握、売上げ金の管理等を事務職員に任せきりにし、2019年12月頃まで、預り金口座を確認しなかった
  • 2019年12月頃、事務職員が預り金から横領していたことを知ったものの、速やかに会社に報告しなかった
  • 破産申立て、債務整理手続きいずれについても、委任契約書を締結しなかった

というもの。

事務職員の横領という珍しい事案です。金額が記載されていないのですが、おそらく全額弁償できたものと考えられます。「委任契約書不作成」という事実にプラスアルファの事情が加わっても、この処分にとどまっているということは、委任契約書不作成事案にとっては参考となる事例です。

金沢弁護士会 戒告

  • AとBとの間の損害賠償請求交渉事件について、Aの依頼を受けてBの代理人C弁護士を通じた交渉に着手していたところ、Bが被懲戒者の事務所を訪れた際、BからC弁護士との委任契約が解消されておらず、C弁護士から被懲戒者の事務所を訪れることを止められたという話を聞いたにもかかわらず、30分以上、慰謝料の支払条件等についてBと直接交渉を行った

というもの。

具体的なやりとりの内容が分かりませんので評価が難しいところですが、おそらくノンアポでやってきたBに対して「C先生が就いてるんでしょ」という話をしつつ、うっかり交渉そのものの話に及んでしまったものと推測されます。大変厳しい結論になってしまった印象があります。

第二東京弁護士会 業務停止1年

  • Aから消費者被害事件を受任し、加害者との間で約1270万を分割で支払う和解を成立させ、初回入金約180万円はAに返還したものの、それ以降に回収した約1010万円について返還請求があったにもかかわらずこれを返還せず、少なくとも約917万円を流用した
  • Bから遺産分割協議を受任し、2021年3月、遺産である不動産を換価した1330万円が預り金口座に振り込まれたが、仲介手数料及び振込手数料を控除した約1276万円について、Bから返還請求があったにもかかわらず、これを返還せず、流用した

というもの。

いわゆる横領事案に分類されるとおもいますが、「流用」先の記載がなく、おそらく流用先の特定ができなかったのではないかと思われます。流用先によって量定がかわるのかの検証も必要かも知れません。

釧路弁護士会 業務停止4月

  • 2023年2月20日から同年4月19日までの間、業務停止2月の懲戒処分を受けたにもかかわらず、同年2月21日、損害賠償請求事件において準備書面を提出するとともにウェブ会議による準備手続きに参加し、3月14日、2件の債務整理事件について、債権者から進捗状況確認の電話があった際に回答し、さらにAの示談交渉の相手方に、3月20日受付で和解案を送付し、加えて3月9日、Bの交渉の相手方から確認依頼を受け、3月24日、4月4日、確認状況の照会に対して回答するとともに、4月18日には相手がからの示談案について答え、4月12日、債務整理事件の相手方から進捗状況確認の電話があった際に回答し、さらに、業務停止処分後から4月5日までの間に、顧問先会社の代表者から投資に関する紛争の相談を受け、相手方への当面の対応方法を助言して、業務停止中に業務を行った

というもの。

業務停止中の業務事案です。

なお、業務停止は告知とともに効力を発しますが、発効直後は裁判所もその事実を確知しておらず、事実上、期日対応ができてしまうことがあります。しかしながら、後日弁護士会から全国の裁判所に業務停止の事実と業務停止期間中の業務の有無の照会に関するお触れが回りますので、その時点で弁護士会にはバレてしまいます。他方、本件は、裁判上の行為以外の行為も理由になっている珍しい事案であり、ご本人が正直に申告したものと推測されます。

第一東京弁護士会 業務停止6月

  • 2015年12月、懲戒請求者から夫に対する離婚請求及び財産分与請求等を受任し、2016年9月20日に離婚調停が成立したが、財産分与が合意できず、2018年9月19日に財産分与請求の調停を申し立てたところ、6期日のうち3期日について懲戒請求者に無断で出頭せず、2019年8月27日に審判に移行した後も3期日の全てについて懲戒請求者に無断で出頭せず、11月7日に取下げ擬制となった結果、離婚の時から2年を経過するまでに協議に代わる処分を家庭裁判所に請求する権利を喪失した
  • 上記経緯について審判移行したことのみを報告したのみでその他の経過については報告せず、取下げ擬制となったことを報告しなかった
  • 2016年5月、財産分与の一部として懲戒請求者の夫から預り金約328万円を受領したところ、取下げ擬制により終了した後遅滞なく返還する義務があったのにもかかわらず、これを返還しなかった

というもの。

財産分与請求調停の申立てが離婚成立から2年経過する日の前日だったので、2年の除斥期間の認識があったことは間違いないと思われます。それだけに、その後の対応はもったいない以外のなにものでもありません。何か事情があったのでしょうが、次善策が取れなかったのが悔やまれます。

東京弁護士会 業務停止1月

  • A社から損害賠償請求事件を受任し、着手金として21万6000円を受領し、8月末には提訴可能な状態であったにもかかわらず、2021年4月23日頃に至るまで約2年8か月にわたり訴えを提起せず、A社の取締役Bから再三の問合せに対しても明確な返答をしなかった
  • 2019年6月、Cに対する自己破産申立事件を受任し、A社から弁護士費用として32万4000円を受領したが、Bからの再三の問合せを受けながらも明確な返答をせず、自己破産申立事件の申立てをしなかった

というもの。

事案放置案件です。

大阪弁護士会 戒告

  • 2022年2月、懲戒請求者を被害者とする交通事故の損害賠償請求事件について、委任契約を締結し、懲戒請求者と協議して、調査会社に対し後遺障害に関する私的鑑定を依頼する方針を決めたところ、同年4月13日までには調査会社に対する依頼書を完成させていたものの、正当な事由なく6月27日まで調査会社に提出しなかった
  • 依頼書の完成後、調査会社に2022年6月27日頃まで提出しなかったことを懲戒請求者に報告しなかったのみならず、事実を隠蔽するために、上記依頼書の日付を書き換えて懲戒請求者に送付した
  • 同年7月8日頃、懲戒請求者から解任され、同月11日、調査会社への調査依頼を取り下げたところ、委任の終了にあたり、懲戒請求者に対して、調査依頼を維持するか否かについて法的助言も説明も全くしなかった

というもの。

事案放置ですが、実質2か月程度の遅延であり、非常に厳しい印象です。依頼書の日付を変更していなければ処分に至ってなかったかもしれません。

日弁連以降

第二東京弁護士会 業務停止2月 → 異議の申出 業務停止3月

  • 株式会社である懲戒請求者の組織内弁護士であった被懲戒者が、複数の懲戒請求者組織内弁護士名義で所属弁護士会懲戒委員会において懲戒請求者の株主総会名義の株主総会議事録面(以下「本件株主総会決議書面」という)の偽造に加担し、懲戒請求者の取締役会決議を経ずに、真実は株主総会を開催していないにもかかわらず、懲戒請求者の子会社の取締役に対する取締役会決議書面に署名し、同社として新株発行をするようめた行為は、弁護士職務基本規程(以下「規程」という)第14条に違反すると認定及び判断し、本件株主総会決議書面の偽造及び私文書偽造に準ずる行為は、私文書偽造罪に相当し、これに加担した被懲戒者の行為は、弁護士への信頼を失わせる重大な違反行為であること、懲戒請求者は上記新株発行により会社の支配権を失うという損害も受けていることなどから、業務停止2月を相当とする議決をし、原弁護士会は被懲戒者を業務停止2月の懲戒処分とした。
  • 懲戒請求者から本会懲戒委員会に新たに提出された証拠及び同委員会における被懲戒者の弁解結果その他を踏まえた結果、原所属弁護士会懲戒委員会の上記認定及び判断に誤りはないが、他の懲戒請求事由について以下の事実を認定し、判断した。
  • Aは、開催予定の取締役会(以下「本件取締役会」という)で自ら代表取締役を解任され、その後、Aの行為等による調査を開始した懲戒請求者の監査役により解任されていた懲戒委員会らの支配権奪還を意図し、懲戒請求者のサーバーに保存されていた資料やデータの持ち去ることについて話し合い、被懲戒者は、Aの意図を認識しながら、Aによる資料やデータの消去について具体的なアイデアや賛同する意見を述べ、Aの上記行為についてAらと継続的に共謀した。そのすぐ後に、Aの指示を受けた従業員らにより、本件取締役会まで、懲戒請求者のサーバー上のデータの削除や資料の持出が行われたのであり、被懲戒者はAの指示による書類の持出しやデータの消去に協力・加担したと認定することができる。
  • そして、Aは、当時いまだ懲戒請求者の代表取締役の地位にあったとはいえ、自身の代表取締役解任や追加調査を予想して、自身に都合の悪い書類の持出しやデータの消去を行い、その権限を濫用し予想された追加調査を妨害することにより、懲戒請求者の財産である書類やデータを違法に奪い不当に処分した。また、懲戒請求者の業務に深刻な支障を来すその他の行為がある。これに協力・加担した被懲戒者の行為は、詐欺的行為に匹敵ないし準ずる行為と言え、規程第14条に違反する。
  • 上記の被懲戒者の各行為は、いずれも規程第14条に違反し、弁護士としての品位を失うべき程度が甚だ重いと言わざるを得ず、被懲戒者は、いまだ反省が十分であるとは認められず、上記行為を併せ考慮すると、Aが指示して消去させたデータは事後的に一部を除いて短期間に回復され、持ち出した書類もAが返還に応じ旨回答していることなどの事情を斟酌しても、原弁護士会の処分は不当に軽いため、原弁護士会の処分を変更し、被懲戒者の業務を3月間停止することが相当である。

とのこと

業務停止期間の量定に明確な基準があるわけではないので、業務停止2月が不当に軽く3月が相当というのはかなり厳しい認定になったという感想です。

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