今回は社会保険労務士の懲戒手続きと流れについて説明します。
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社会保険労務士の懲戒について
厚生労働省の「社会保険労務士及び社会保険労務士法人に対する懲戒処分に関する運用基準」には次のとおりの記載があります。
「社会保険労務士(以下「社労士」という。)は、常に品位を保持し、業務に関する法令及び実務に精通して、公正な立場で、誠実にその業務を行わなければならない職責を負い、社労士がその職責を果たすことにより、労働及び社会保険に関する法令の円滑な実施に寄与し、事業の健全な発達と労働者等の福祉の向上を図ることが期待されている。」
社労士業務の執行は、事業者及び労働者のみならず、労働行政、社会保険行政に対しても重要な影響を及ぼすものであることから、厚生労働大臣による監督上の行政処分として、懲戒処分をするとされています。
懲戒の種類
社労士の懲戒処分の種類は次のとおりです。
社会保険労務士に対する懲戒処分は、次の三種とする。
戒告、1年以内の開業社会保険労務士若しくは開業社会保険労務士の使用人である社会保険労務士又は社会保険労務士法人の社員若しくは使用人である社会保険労務士の業務の停止、失格処分(社会保険労務士の資格を失わせる処分をいう。以下同じ。)
(社会保険労務士法第25条)
(社労士法人の場合は、戒告、1年以内の期間を定めて業務の全部若しくは一部の停止命令、解散。第25条の24)
処分の事由
社労士に対する懲戒処分の事由は、次のとおり分類されます。
法25条の2第1項
①故意に、真正の事実に反して申請書等の作成、事務代理若しくは紛争解決手続代理業務を行ったとき
②不正に労働社会保険諸法令に基づく保険給付を受けること、不正に労働社会保険諸法令に基づく保険料の賦課又は徴収を免れることその他労働社会保険諸法令に違反する行為について指示をし、相談に応じ、その他これらに類する行為をしたとき
法25条の2第2項
相当の注意を怠り、法25条の2第1項に規定する行為をしたとき
第25条の3
①第17条第1項若しくは第2項の規定により添付する書面若しくは同条第1項若しくは第2項の規定による付記に虚偽の記載をしたとき
②この法律及びこれに基づく命令若しくは労働社会保険諸法令の規定に違反したとき、
③社会保険労務士たるにふさわしくない重大な非行があったとき
量定の考え方
懲戒処分の量定については、別表を基準として、次の①~⑦に掲げる事項に関する情状を総合的に考慮して決定する。なお、社労士及び社労士法人の懲戒処分に関する個々の事案は、様々な背景や特徴を有しているため、別表に定める量定が適切でないと認められる特段の事情がある場合には、法に規定する処分の範囲を限度として、量定を決定することができるものとする。
① 社会保険労務士制度に対する信用失墜の程度
② 円滑な労働・社会保険行政に対する侵害の程度
③ 不正行為等の規模
④ 更なる不正行為等の防止の必要性
⑤ 刑事処分の有無及びその内容
⑥ 過去の量定との均衡
⑦ その他の情状
適用
懲戒事由の通知(懲戒の請求)
① 社会保険労務士会又は連合会は、社会保険労務士会の会員について、前二条に規定する行為又は事実があると認めたときは、厚生労働大臣に対し、当該会員の氏名及び事業所の所在地並びにその行為又は事実を通知しなければならないとされています。(義務)
② 何人も、社会保険労務士について、前二条に規定する行為又は事実があると認めたときは、厚生労働大臣に対し、当該社会保険労務士の氏名及びその行為又は事実を通知し、適当な措置をとるべきことを求めることができるとされています。
(法第25条の3の2)
懲戒処分の流れ
社労士の不正事実を厚労省に発覚した後、概ね次のとおりの流れになります。
労働基準局監督課による調査
社労士からの聴取、事業主等関係者からの聴取、証拠物の確定など
聴聞の実施
代理人の選任、関係人の聴取手続き準備、資料の閲覧、陳述書の提出などを経て、聴聞の実施をします。
懲戒処分の決定
厚生労働大臣が、調査、聴聞の結果を踏まえて処分を決定します。
登録抹消の制限
懲戒手続きに付された場合においては、その手続きが結了するまでは、登録の抹消はできません(第25条の4の2)。これは、懲戒逃れの抹消を防止する目的によるものです。
官報公告
懲戒処分をしたときは、厚生労働大臣は、当該社労士に通知するとともに、官報をもって公告しなければなりません。
懲戒処分事例
厚生労働省のHPで懲戒処分事例が公表されています。
社会保険労務士等の懲戒処分事案