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自由と正義2025年7月号について【懲戒処分分析】

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自由と正義2025年7月号

今月号は、

単位会の懲戒11件

戒告5件
業務停止1月2件
業務停止2月1件
業務停止5月1件
業務停止6月2件

日弁連の審査請求(棄却)1件でした。

単位会の懲戒

群馬弁護士会 戒告

  • 被懲戒者は、ビルの1階の一部を賃借し店舗を営んでいた懲戒請求者から、2022年4月20日、同月2日に2階の店舗のトイレが詰まったことから生じた漏水事故について貸貸人に対する損害賠償請求の訴訟外の交渉を受任し、同年6月15日、上記漏水事故について訴訟の提起を受任し、同年11月頃、同年7月24日に3階の店舗のトイレの漏水事故から生じた懲戒請求者の営む店舗の損害についての訴訟の提起を受任したところ、いずれの際も、貸貸人に対して損害の賠償を請求するには、建物の排水設備に瑕疵がある等、漏水事故について貸貸人の責めに帰すべき理由があったことが必要であることから、その旨を懲戒請求者に十分説明して、その理解を得ようとせず、訴訟提起を受任した後も、請求すべき損害の額、その立証方法等について、懲戒請求者との間で十分な協議を行わず、訴訟提起に必要な書類の持参も要求せず、同年4月2日の漏水事故を発生させた店舗の代理人に架電しただけで、貸貸人に対する交渉等も行わず、懲戒請求者から損害の賠償や水漏れ防止対策が実施されないのであれば賃料を支払わない意向である旨伝えられた際にも、その旨貸貸人に告げたり、今後の方針や対策について協議をせず、賃貸借契約が解除され、同年12月末頃、懲戒請求者から訴訟提起について問合せを受けた際に、既に訴訟は提起済みであるとの虚偽の報告をした。

受任事件に関する説明が不十分であったということかとおもいますが、方針自体が定まらないまま受任した可能性があるかもしれません。受任後、「手が詰まる」ということは考えられなくはありません。そうした場合でも適切な説明をした上で、必要な措置を講ずる必要があったといえるでしょう。

千葉県弁護士会 業務停止1月

  • 被懲戒者は、Aの国選弁護人に選任されたところ、2023年8月7日、警察署に留置されているAから同人名義のキャッシュカードの宅下げを受け、同年9月末までに上記キャッシュカードを用いて口座から金員を引き出す必要性がある業務が終了し、同年11月中旬にはAの第一審判決が確定して事件が終了したが、A、Aの親族及び加害者家族支援を主たる業務として活動する懲戒請求者特定非営利活動法人Bが上記キャッシュカードの返還について被懲戒者に連絡をした後も、返還を行わなかった。

一般論として、キャッシュカードなどは可能な限り預からず、仮に預かる場合であっても速やかに返還したい、とおもうものです。特に本件は国選弁護人ですから、なおのことだと思うのですが。

キャッシュカードを返還しなかったのはどのような理由があったのでしょうか。処分の内容からすると、単純にキャッシュカードの不返還そのものが理由になっており、横領や使い込みなどはなかったものと思われますが、そうだとするとよりナゾが深まります。

群馬弁護士会 戒告

  • (1)被懲戒者は、懲戒請求者とその配偶者Aの子らについての監護者指定等申立事件について、2021年9月24日に家庭裁判所が審判をしたことに対し、これを不服とするAの手続代理人として、即時抗告を申し立てたところ、懲戒請求者の手続代理人B弁護士が懲戒請求者とともに同人の当時の勤務先事務所内に立ち入って勤務先の書類を持ち出し、窃取した事実は認められないにもかかわらず、同年10月20日付け抗告理由書に、あたかもB弁護士が窃盗を行ったかのような記載をし、これを裁判所に提出した。
  • (2)被懲戒者は、2022年6月16日、Aが申し立てた懲戒請求者を相手方とする面会交流調停においてAの手続代理人であったところ、医師が作成した長男の診断書を同年8月16日に懲戒請求者が遅延して提出したことについて、十分な事実調査を行わず、嫌疑がかけられることを相当とする客観的根拠もないのに、同月22日、Aの代理人として、懲戒請求者を虚偽診断書作成の罪で検察庁に告発した。

どのような背景があったのかは要旨からうかがい知れませんが、やっていることはかなり過激に見えてしまいます。事案の類型的に、依頼者の感情が高ぶりやすいものと想像しますが…

第二東京弁護士会 戒告

  • (1)被懲戒者は、懲戒請求者から、2015年9月2日に株式会社Aらに対する顧問料等請求訴訟事件を、2017年2月6日にB株式会社らに対するロイヤリティ等請求訴訟事件を受任したところ、2019年以降、懲戒請求者からの報告要求に対し、真摯に応答しなかった。
  • (2)被懲戒者は、A社らに対する上記(1)の訴訟事件について、懲戒請求者から基本契約書その他の原本を預かったところ、上記訴訟事件が終了し、懲戒請求者から返還を求められたにもかかわらず、預かった原本を返還しなかった。

訴訟事件自体は終了しているようですので、あくまで事件係属中の報告が不十分であったという理由です。訴訟の途中経過や結果が芳しくなかったのかもしれません。ここに出ている事情だけからしても、請求権自体の構成に苦労されたものと推測します。

大阪弁護士会 業務停止6月

  • (1)被懲戒者は、懲戒請求者との間で、2017年10月17日、交通事故の損害賠償請求に関し、示談交渉、書類作成、第一審までの訴訟及び調停を内容とする委任契約を締結しながら、2021年8月4日の委任契約終了までの約3年9か月の間、受任事件に着手しなかった。
  • (2)被懲戒者は、懲戒請求者に対し、経過の報告をせず、上記(1)の委任契約が遅くとも2021年8月4日に終了したにもかかわらず、経過の報告をせず、着手金及び預り書類を返還しなかった。

単純な事件放置に比べ、量定が重い印象です。「着手金」を返還しなかった、という点が重く評価されているのでしょうか。(2)中、「経過の報告をせず」が2回出てきますが、この両者は別のことを言っているのかも気になりました。

徳島弁護士会 戒告

被懲戒者は、2024年3月27日、所属弁護士会から業務停止1月の懲戒処分を受け、同日午前10時までには上記処分の効力が生じていたにもかかわらず、Aから受任していた2023年8月7日発生の交通事故に基づく損害賠償請求事件に関し、上記処分の告知を受けた後の当日、Aの代理人として、Aが被った人身損害についての示談を内容とする承諾書を作成して保険会社に送付し、また、Bから受任していた同年4月8日発生の交通事故に基づく損害賠償請求事件に関し、2024年4月2日、Bの代理人として、Bが被った人身損害についての示談を内容とする承諾書を作成して保険会社に送付し、さらに、同月8日、Aが契約する自動車保険契約の保険会社に対して、Aから受任していた上記事件に関して弁護士費用特約に基づく弁護士報酬を請求する文書を作成して送付した。

今度は逆に、業務停止中の業務事案においては珍しい戒告事案です。A案件については懲戒処分効力発生直後の業務のようですが、B案件については、数日経ったあとの業務のようです。どのような事情が斟酌されたのかが非常に気になります。

愛媛弁護士会 戒告

  • (1)被懲戒者は、2019年3月、懲戒請求者から同人の子の自己破産申立ての依頼を受け、2020年3月27日、着手金22万円及び預り金20万円を受領したが、委任契約書を作成しなかった。
  • (2)被懲戒者は、懲戒請求者から上記(1)の自己破産申立ての依頼を受けたにもかかわらず、懲戒請求者からの催促も請求を受けながら、一度も介入通知を送ろうとせず、自己破産申立てをしなかった。

類型的には事案放置案件になるかと思います。依頼を受けた日と着手金等の受領日との間に約1年乖離があることや「介入通知を送ろうとせず」という点についてはどのような事情があったか知りたいところです。

京都弁護士会 業務停止5月

  • (1)被懲戒者は、当時不動産関係の事件の依頼を受けていたAから、2023年7月6日、400万円を借り受け、また、同年9月28日、700万円を借り受けた。
  • (2)被懲戒者は、2018年4月頃、懲戒請求者から、賃貸借契約に関する調停申立事件を受任したものの、2023年10月27日に解任されるまで申立てを行わず、また、2022年8月頃、上記賃貸借契約に関する損害について訴訟の準備を進めることとなり、売上や支出の資料を預かりながらも、訴訟準備の報告を行わず、1年を経過させた。
  • (3)被懲戒者は、懲戒請求者から、上記(2)の賃貸借契約に関する資料を預かり、解任された後、預り品の返還を求められたにもかかわらず、これらを返還せず、その後、預り品の返還を求める調停申立てを申し立てられたにもかかわらず、調停期日に出頭すらしなかった。
  • (4)被懲戒者は、Bから、交通事故の損害賠償請求事件を受任し、損害賠償金3000万円を被懲戒者の預り金口座で受領したものの、2024年6月14日、Bに無断で400万円を出金して預かり保管した目的以外に使用した。
  • (5)被懲戒者は、上記(4)の預り金口座を、所属弁護士会に預り金口座として届け出なかった。
  • (6)被懲戒者は、2024年6月25日に所属弁護士会からなされた同年7月2日を期日とした出金の使途等についての照会及び同月9日に所属弁護士会から改めてなされた同月11日を期日とした出金の使途等についての照会に対し、いずれも書面での回答をしなかった。

事件放置と預り金の流用、依頼者との貸し借りの複合形態のようです。預り金の流用が疑われる事案では、弁護士会から照会があります。ここで誠実な対応ができるかどうかがその後の展開を左右します。

神奈川県弁護士会 業務停止6月

  • 被懲戒者は、懲戒請求者から、2021年5月11日、離婚調停事件を受任したところ、懲戒請求者に対し、同年7月8日に懲戒請求者にとって初回となる調停期日が開催されるに当たり、調停の当事者本人が調停期日に出頭することの適否についての説明を行わず、同年9月8日の調停期日が開催されるに当たっては、書面を取り交わすだけなので、懲戒請求者は出頭する必要がないと説明し、懲戒請求者が2回の調停期日に出頭しない状況にした。
  • また、被懲戒者は、2022年1月25日開催予定の調停期日に先立つ同月21日に、懲戒請求者と打合せを予定していたが、懲戒請求者に対し、新型コロナウイルスの濃厚接触者になったことをメールを送信して打合せを中止し、その日のうちに日程調整の連絡をせず、同月25日の調停期日は3月23日に延期となったが、その開催時間を知らせなかった。さらに、被懲戒者は、同年12月22日の調停期日当日に、懲戒請求者に対し「新型コロナウイルスに感染した関係」で出頭できない旨の連絡をメールでしたが、懲戒請求者が被懲戒者にどう対処すべきかなどのメールを返信しても返信せず、同月23日以降、懲戒請求者が複数連絡しても、連絡が取れない状態になった。

既に業務停止2年の懲戒処分を受けている中での懲戒処分です。この要旨からすると量定が重いのではないかという印象もありますが、弁護士会の会長談話によれば綱紀懲戒手続に関する弁明や呼出に全く応じていなかったことなどの事情もあったようです。
もっとも、弁護士にとって、公告の記載が規範になるわけなので、量定を重くする事情なども要旨に含めてほしいところです。

東京弁護士会 業務停止1月

  • (1)被懲戒者は、2021年4月頃から2024年6月頃まで、厚生労働省が行っている人材開発支援助成金などの雇用関係助成金を制度の計画及び支給申請を希望している事業者との間で助成金支給申請等における書類の作成や労働局への提出等を事業者に代行して行う助成金申請代行業務に関する代行業務契約を締結している有限責任事業組合Aから、助成金申請代行業務を受任し、その大部分を株式会社Bに委託したところ、B社及びB社と雇用関係にある担当者が行う助成金申請代行業務は弁護士法第72条に違反すると疑うに足りる相当な理由があるにもかかわらず、B社及び上記担当者に十分な指揮監督を行わずに助成金申請代行業務を行わせて利用した。
  • (2)被懲戒者は、2021年2月5日、上記(1)のA組合に組合員として加入したところ、A組合は営利を目的とする業務を営むことがあるにもかかわらず、営利業務従事届出書を提出しなかった。

珍しい内容の非弁提携事案です。紛争性、事件性が低い類型の業務であっても実質的に名義を貸して業務を行わせていたという判断のようです。また、それに伴い、営利業務従事届出の懈怠も認定されてしまいました。

三重弁護士会 業務停止2月


被懲戒者は、2018年4月11日、懲戒請求者が代表取締役である株式会社AからBを被告として提起した不当利得返還請求訴訟において、A社の訴訟代理人であったところ、2020年11月13日に実施された上記訴訟に関する本人尋問の打合せの際、懲戒請求者からの殊更な裏付けを要する事実に基づく供述書の下案を受け付ける書面が存在すると明確に説明し、懲戒請求者が事実と違う供述をすることの不安を何度も口にしていたにもかかわらず、懲戒請求者に対し、記憶に反する供述をするように積極的な指示を行った。

(本人尋問であるにせよ)偽証教唆に近い認定がなされた事案です。懲戒請求者が依頼者の代表者であるという点も重くなった理由かも知れません。

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