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自由と正義2025年9月号について【懲戒処分分析】

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自由と正義2025年9月号

今月号は、

単位会の懲戒13件

戒告8件
業務停止1月1件
業務停止2月1件
業務停止2月2件
業務停止6月1件

日弁連の審査請求はゼロ、裁決取消訴訟の判決(棄却)が1件でした。

単位会の懲戒

東京弁護士会 業務停止1月

被懲戒者は、2018年3月頃から2022年夏頃までの間、株式会社Aから紹介を受けた厚生労働省が行っている雇用関係助成金各制度の計画及び支給申請を希望する事業者から助成金申請代行業務を受任したが、その大部分を株式会社Bに委託し、被懲戒者の事務所の助成金申請部という名称を用いて業務を行っていたところ、B社及びB社と雇用関係にある担当者が行う助成金申請代行業務は弁護士法第72条に違反する疑いに足りる相当な理由があるにもかかわらず、B社及び上記担当者に十分な指導監督を行わずに業務を行わせて利用した。
被懲戒者の上記行為は、弁護士職務基本規程第11条に違反し、弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。

珍しい形態の非弁提携認定事案です。

神奈川県弁護士会 戒告

被懲戒者は、2022年12月21日、Aの訴訟代理人として、Aの養親BがAに対し養子縁組の解消を求める事案におけるBの代理人である懲戒請求者C弁護士を被告とする損害賠償請求訴訟を提起したところ、2023年5月8日、懲戒請求者C弁護士の承諾を得ないで、Aと一緒にBの自宅を訪問し、Bと面談の上、あらかじめ準備した上記訴訟においてAの有利な証拠とするため、BがAとの養子縁組関係を解消する意思がないことを内容とする陳述書に署名押印をさせ、同月24日、上記訴訟の証拠として提出した。

被懲戒者の上記行為は、弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。

熊本県弁護士会 戒告

被懲戒者は、2022年4月から同年10月頃にかけて、懲戒請求者とAとの間で離婚請求の訴えが係属して、戸籍上の手続きは完了していない状況下において、Aと性的関係を持ちながら、Aの代理人として、懲戒請求者からAに対する不当利得返還請求訴訟及びAから懲戒請求者が理事長をしている法人Bに対する役員報酬支払請求訴訟に係る訴訟行為をした。

被懲戒者の上記行為は、弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。

依頼者との不適切な関係で、相手方から懲戒請求を受けた事案のようです。

福岡県弁護士会 戒告

(1)被懲戒者は、2022年12月頃、懲戒請求者から賃借物件の明渡しに関する事務を含む滞納家賃に関する民事事件並びに詐欺事件の被害弁償及び保釈の件について受任したが、委任契約書を作成しなかった。

(2)被懲戒者は、明渡工事代金の内容、根拠等について特に確認せず、明細を示す書面もなく、懲戒請求者に事前に説明、確認せずに、2022年12月26日頃、預り金から120万円を明渡工事代金として株式会社Aに支払い、同日、同社から領収書の交付を受けなかった。

(3)被懲戒者は、2023年3月頃から、懲戒請求者から相当回数にわたり預り金の金額返金を求められ、都度、了解の旨を返答しながら、同年9月29日まで、120万円を明渡工事代金に使用して預り金の残金がないことを報告しなかった。

(4)被懲戒者の上記(1)の行為は弁護士職務基本規程第30条に、上記(2)の行為は同規程第36条及び第37条に、上記(3)の行為は同規程第5条及び第36条に違反し、いずれも弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。

委任契約書は、単に作成すればいいというものでなく、委任の趣旨や範囲を明確にするなど、弁護士側を救うためのものでもあります。

また、本件に関する事情は分かりませんが、依頼者にとって明渡の費用が高額であったことから不信感が生じてしまったものと推測します。

東京弁護士会 戒告

(1)被懲戒者は、懲戒請求者がAから500万円借用する旨の金銭消費貸借契約について契約書の作成、締結に関して信頼関係に基づき協議を受けながら、相手方であるAの要望を受け、懲戒請求者に対し、2018年12月8日から2019年4月8日までの間、複数回に及ぶ電話やメールの連絡をし、その中で、終始、実体のない450万円の債務について金銭消費貸借契約を締結することを繰り返し求め、また、上記500万円の金銭消費貸借契約及び上記実体のない450万円の債務について、抵当権の設定を迫った。

(2)被懲戒者は、2018年12月15日、懲戒請求者に対し、電話で、B株式会社を被告人とする刑事事件に関し、B社の弁護人でありながら、第1回公判前に、罪状否否の内容を話した。

(3)被懲戒者の上記各行為は、いずれも弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。

背景事情が分からないと評価が難しいのですが、「締結に関して信頼関係に基づき協議を受けながら」と職務基本規程27条の文言を引用した評価を記載していることから、この点が争点であったと想像されます。
なお、約4か月にわたり認定されたような事実記載のことを求めたことや、懲戒請求者とB社の関係(まったく無関係なのでしょうか)が気になりますね。

東京弁護士会 戒告

被懲戒者は、2020年12月2日、ツイッターにおいて、懲戒請求者が不当な懲戒請求、恐喝といった違法行為をしているという懲戒請求者の名誉を毀損する投稿を行い、上記投稿に、懲戒請求者の住所等が公知となっていたことは認められないにもかかわらず、懲戒請求者の住所、氏名、携帯電話番号、メールアドレスの記載がある懲戒請求書の画像を添付した。

被懲戒者の上記行為は、弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。

プライバシー情報をSNSに書き込んだという事実のようです。

福岡県弁護士会 戒告

(1) 被懲戒者は、2020年7月6日、懲戒請求者の紹介でAの覚醒剤取締法違反の被疑者弁護人に選任されたところ、同年9月8日にAとともに銃刀法違反及び覚醒剤取締法違反の被疑事実で逮捕、勾留された懲戒請求者とAの間における利益相反が顕在化したにもかかわらず、Aの弁護人を辞任せず、また、懲戒請求者の弁護活動を行った。

(2) 被懲戒者は、2020年10月11日頃、懲戒請求者の弁護人に選任されたが、委任契約書を作成しなかった。

(3) 被懲戒者は、2021年3月9日から2022年1月11日までの10か月間、覚醒剤の自己使用以外の事件について否認していた懲戒請求者から再三にわたり接見を希望する旨を伝えられていたにもかかわらず、2回しか接見しなかった。

(4) 被懲戒者の上記(1)の行為は弁護士職務基本規程第28条第3号、第42条及び第46条に、上記(2)の行為は同規程第9条に、上記(3)の行為は同規程第47条に違反し、いずれも弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する

利益相反と不適切弁護の事案です。

大阪弁護士会 戒告

被懲戒者は、懲戒請求者の弁護人であったが2021年3月26日付けで辞任したところ、同月中旬に懲戒請求者から懲戒請求の申立てをするとの内容を含む手紙を受け取り、同月19日から同月23日にかけて、懲戒請求者と極めて濃厚な人的関係にあったAに対し、懲戒請求者に伝わることを認識しながら、懲戒請求を断念させるために、「晒します」など懲戒請求者の刑期をより重くする事実を広く公にする旨や「刺し殺しに行きます」「死んだらエェねん」などと懲戒手続内にとどまらず上記の事実を広く公にする旨を想起させる内容の脅迫的言辞を送信し、Aを介して懲戒請求者に告知した。

被懲戒者の上記行為は、弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。

全て一文で表現しようとしたため時系列が分かりにくいのですが、これを読む限り、

  1. 3月中旬 懲戒請求者から懲戒請求の申立てをするとの内容を含む手紙を受け取る
  2. 同月19日から同月23日にかけて Aに対し、「懲戒請求者の刑事より重くなる事実」「上記の事実を広く公にする旨を想起させる内容の脅迫的言辞を送信」して、Aを介して懲戒請求者に告知した。
  3. 3月26日 弁護人辞任

という順番のようです。

どうして「刺し殺しに行きます」「死んだらエェねん」という言辞が、「(刑期をより重くする)事実を広く公にする旨を想起させる内容」なのかどうかが、よく分かりませんでした。

大阪弁護士会 業務停止3月

被懲戒者は、2021年4月、株式会社Aの申立てにより仮差押決定が発令され、同月13日、懲戒請求者の主導により設立された株式会社Bの預金債権が仮に差し押さえられたところ、同月23日、本来ならB社名義の口座にて受領すべきB社の実質的な事業資金3000万円を預かり、また、同年5月13日から8月17日にかけて、A社からの上記仮差押えの対象とされたB社名義の口座から振込により被懲戒者の預り金口座に計2457万1466円の入金を受けるなど、A社によるB社名義の預金口座に対する仮差押えの目的を害するおそれのある行為を行った。

被懲戒者の上記行為は、弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。

詳細が分からないと全くのミステリー事案です。

ミステリー1 仮差後の強制執行妨害?

  • 4月13日 債権者A社によりB社の預金が仮に差し押さえられた(同日に第三債務者に送達された?)
  • 4月23日 被懲戒者が3000万円を預かった
  • 5月13日〜8月17日 B社口座から計2457万円を預り金口座に入金を受けた

どう見ても仮差押後にB社の財産を預かったというようにしか読めないのですが、これがどうして仮差押の目的を害するおそれのある行為になるのでしょうか? (現に押さえた口座以外の口座に対して将来行うかも知れない仮差押を妨害した、という意味でしょうか)

ミステリー2 懲戒請求者が実質的なB社支配者?

当初、懲戒請求者は債権者(A社)だろうと思って読んでいたのですが、どうも違うようです。債務者であるB社の設立を主導した人が懲戒請求者とのこと。

一見すると債務者(側)であるはずの人が、債権者の利益をおもんぱかって懲戒請求をしたという構図がまったく読めません。

大阪弁護士会 戒告

被懲戒者は、懲戒請求者の兄であるA及びAと夫婦であるBと交友関係を持っていたが、BからAに対して離婚の話をしてほしい旨を依頼され、2023年1月20日、AにBがAとの離婚を希望していることを伝えたところ、同日以降同年2月12日までの間、Aと長時間通話するとともに継続的にLINEでのやり取りを繰り返し、Aから、Bとは離婚したくないとの意向を聞かされたり、Bと直接二人で話し合う機会を設定するように要望されたりするとともに、Bの不貞を疑っていることやその時期等についても説明を受けるなど、Bとの離婚問題について協議を受け、Bの利益のために活動しているとか、将来Bの代理人となる可能性があるとの説明をせず、AからのBとの直接協議の日時等の調整の依頼を受託して継続的にやり取りを行っていたにもかかわらず、同年3月3日、Bと委任契約を締結し、夫婦関係調整調停事件について、Bの代理人に就任した。

被懲戒者の上記行為は、弁護士職務基本規程第27条第2号に違反し、弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。

弁護士にとって夫婦双方が個人的に友人関係にある事案の離婚相談はそれなりにあります。仮にいずれか一方の代理人に就くのであれば立場を明示する必要があるでしょうし、個人的に知ってしまっている相手方の情報などの扱いにも悩むことになりかねません。
こうしたケースにおいてはそもそも受任を避けるのが無難であったかもしれません。

第一東京弁護士会 業務停止2月

(1)被懲戒者は、懲戒請求者株式会社Aとの間で締結した法律顧問契約に基づき、2016年4月1日から2018年1月末日まで同社の顧問弁護士の地位にあったところ、懲戒請求者A社からの依頼に基づき作成した同社の2016年9月16日制定及び同日施行の就業規則等の案文において、就業規則の絶対的必要的記載事項である始業及び終業の時刻並びに休憩時間について必要な記載を欠いたものであった。

(2)被懲戒者は、2017年10月下旬、懲戒請求者A社の代表者Bに対し、別の顧問先C株式会社から金融機関から融資を受けられるようにするための見せ金として利用するため、500万円を被懲戒者の預り金口座に振り込むよう依頼して振り込ませ、これをC社に提供した。

(3)被懲戒者は、2017年11月28日、自己の法律事務所の資金繰りという個人的経済的利益のため、民事訴訟事件の依頼者である懲戒請求者Dから、30万円を借り受けた。

(4)被懲戒者は、2018年1月頃、顧問先である懲戒請求者A社に対し、投資に対するリターンが月利8パーセントという現実には存在しなかった投資話を、さも投資話が確実に存在するという確証を得た安易に持ち掛けた。

(5)被懲戒者は、懲戒請求者A社の女性従業員に対し、セクシュアル・ハラスメントに該当する言動をした。

(6)被懲戒者は、懲戒請求者A社において、自身のことを「裏社会の弁護士」と表現するなどし、反社会的勢力との関わりを示唆した。

(7)被懲戒者の上記(1)の行為は弁護士職務基本規程第37条第1項に、上記(2)の行為は同規程第14条に、上記(3)の行為は同規程第25条に違反し、上記各行為はいずれも弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。

(1)については「案文」が誤っていたとのこと。その後の対応次第だったかも知れません。

岡山弁護士会 業務停止3月

被懲戒者は、AからBに対する養育費請求事件を受任し、2015年8月6日に合意を成立させ、この合意に基づき、同月26日、721万9742円が被懲戒者の預り金口座に振り込まれ、また、2016年3月2日、Aの代理人としてBに対する損害賠償請求訴訟を提起し、同年11月28日に和解が成立し、これに基づき、同年12月28日、200万円が被懲戒者の預り金口座に振り込まれたが、Aに送金しないまま、2017年9月25日から2020年3月13日にかけて、合計810万円を、本来の預り金の使用目的以外の目的で払い戻し、被懲戒者の事務所口座又は被懲戒者が業務とは別に管理する個人口座に入金する等した。

被懲戒者の上記行為は、弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。

預り金の流用事案です。預り金規程についての理解が十分でないケースが散見されます。注意をしましょう。

東京弁護士会 業務停止6月

(1)被懲戒者は、2015年4月14日、株式会社Aの破産申立て及びA社の代表者である懲戒請求者Bの債務整理又は破産申立てを受任し、着手金等241万8000円を預り金789万2500円から充当して受領したところ、2018年11月23日に懲戒請求者Bから委任契約を解約されるまで、A社の破産申立てを行わず、事務処理の経過報告も行わず、その後2020年4月に懲戒請求者Bの代理人弁護士らから報告を求められたにもかかわらず回答をせず、委任契約が終了したにもかかわらず、同年8月5日時点においても預り金等の残金返還並びに破産手続申立て未了による着手金の清算及び残金返還を行わなかった。

(2)被懲戒者は、2021年12月14日、マッチングアプリを通じて知り合った者から投資取引に勧誘されて被害を被ったことから詐欺被害事件を受任したところ、2022年3月31日にCとの委任契約が終了するまでの間、Cと面談することも電話やその他の通信手段を利用して会話することもなく、事件の見通しや弁護士報酬についての説明を行わないままこれらを懲戒請求者に事務職員に行わせ、自己処理方針を決定すべきであるにもかかわらずこれを怠った上、処理方針についてCに対する説明も行わず、また、上記詐欺被害事件につき、事務職員がCに対して他の依頼者に比べて回収可能性が高いなどと不適切かつ不当な説明を行っているところ、そのような不適切かつ不当な説明を行わないように指導及び監督を行わなかった。

(3)被懲戒者の上記(1)の行為は弁護士職務基本規程第35条、第36条及び第45条に、上記(2)の行為は同規程第19条及び第29条第1項に違反し、いずれも弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。

そこはかとなく非弁提携の雰囲気がする事案です。報道もあるようです。

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