弁護士向け

自由と正義2025年12月号【懲戒処分分析】

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自由と正義2025年12月号

自由と正義の処分内容から、弁護士の懲戒請求対応を学んでいきたいと思います。

今月号は、

単位会の懲戒 10件

戒告6件
業務停止1月2件
業務停止3月1件
業務停止6月1件

日弁連

審査請求棄却 3件

裁決取消訴訟棄却 1件

単位会の懲戒

東京弁護士会 業務停止1月

被懲戒者は、弁護士法人Aの代表社員であったところ、弁護士法人Aが2019年9月頃から同年12月頃までの間、ウェブサイトに相続コーディネート業等を事業内容として掲げている株式会社Bから、同社に相談のあった3名について紹介を受け、上記3名から遺産分割交渉事件等を受任したところ、弁護士法人Aが受任した各事件の着手金の20%相当額を上記3名の紹介を受けたことの対価としてそれぞれB社に支払うことを決定し、弁護士法人Aにおいて、B社に対し、同年9月27日、同年11月13日及び同年12月12日、受任した各事件の着手金の20%相当額をそれぞれ上記3名の紹介を受けたことの対価として支払った。

被懲戒者の上記行為は、弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。

有償斡旋事案です。業者に対して支払う費用が定額による広告料ではなく、業務量や顧客、報酬に連動するものとなると、有償斡旋性が推認されてしまいます。

東京弁護士会 業務停止1月

上記事案の弁護士法人の懲戒です。主たる法律事務所のみならず、大阪弁護士会に所属する従たる法律事務所も業務停止の影響を受けてしまいます。

兵庫県弁護士会 戒告

(1) 被懲戒者は、懲戒請求者との間で、2020年9月8日、株式会社Aに対する支払等請求事件に関する委任契約を締結し、同日、着手金11万円の支払を受けるとともに、関連する多くの資料を受領したが、2022年3月4日に懲戒請求者が被懲戒者の事務所を訪問して催促を行うまで、事件に着手しなかった。

(2) 被懲戒者は、上記(1)の事件に関し、2022年3月23日付けで相手方に対して受任通知を送付し、同年4月19日までの間に相手方の代理人弁護士との間でFAX書面をやり取りする方法で交渉を行ったものの、被懲戒者が懲戒請求者の取引履歴の開示を求めたことに対する応答がなかったことで交渉が行き詰まり、それ以降は何もせず、また、交渉経過について、2024年1月24日に懲戒請求者から郵送された催告書を受け取るまで、懲戒請求者に報告しなかった。

(3) 被懲戒者の上記(1)の行為は弁護士職務基本規程第35条に、上記(2)の行為は同規程第35条及び第36条に違反し、いずれも弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。

類型としては事件放置事案に分類されます。相手からの対応を待ってしまい、結果、事件が止まってしまうという事例はままあります。(1)の訪問のあと、(2)の流れになってしまったことが残念ですね。

愛知県弁護士会 戒告

被懲戒者は、懲戒請求者らのAに対する損害賠償等請求訴訟においてAの訴訟代理人を務めていたところ、懲戒請求者らの請求を一部認容した判決が確定したことにより、懲戒請求者らがAに対し損害賠償請求権を有することが確定し、Aがこの確定判決を受けて、懲戒請求者らに対し、遅延損害金も含めた金銭を支払っていたにもかかわらず、Aから遅くとも2022年5月11日までに、上記確定判決は誤判であり、支払った金銭は懲戒請求者らの不当利得であるとする不当利得返還等請求事件を受任した。

被懲戒者の上記行為は、弁護士職務基本規程第31条に違反し、弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。

事情がわかりにくい事案です。確定判決の蒸し返しということでしょうが、再審によらず漫然と「不当利得返還請求事件」として受任したことが非行にあたるということでしょうか。また、懲戒請求者は相手方のようですが、この方たちがどうやって「受任した」ことを覚知したのでしょうか。通常の流れを想定すると、受任後に不当利得返還請求を行ったことで覚知するように思われますが、それであれば、非行と認定する事実は「請求した」ことになりそうです。受任したこと自体が非行と認定された経緯が知りたいところです。

愛知県弁護士会 戒告

(1) 被懲戒者は、Aから、2018年4月、離婚協議事件等を受任したが、委任契約書を作成せず、2019年11月11日にAがBから申し立てられた夫婦関係調整調停申立事件について受任したが、委任契約書を作成しなかった。

(2) 被懲戒者は、上記(1)の事件でAの代理人であった期間中の2019年3月7日、株式会社Cを債権者として、Aの自宅建物に根抵当権を設定し、被懲戒者の個人資産から、Aに対し、同月11日に200万円を貸し付けたのを1回目として、同年12月11日に128万円を貸し付けるまでの約9か月の間、計8回にわたり、合計703万円を、弁済期を貸付けから1年後とした上で年5%の利息を定めて貸し付け、その間の同年10月に上記根抵当権の極度額を増額し、同年11月にAの自宅土地にも根抵当権を設定し、同年12月に極度額を増額した。

(3) 被懲戒者の上記(1)の行為は弁護士職務基本規程第30条に、上記(2)の行為は同規程第25条に違反し、いずれも弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。

委任契約書の不作成及び依頼者との貸し借り事案です。弁護士が貸した側として処分されるのは非常に珍しい事案で、債権者を第三者と思われるCとして根抵当権の設定までしているところが重視されたのかも知れません。

神奈川県弁護士会 業務停止6月

被懲戒者は、2017年3月3日頃、懲戒請求者からA社及び懲戒請求者の自己破産申立事件を、着手金32万4000円、報酬金は着手金と同額として受任し、懲戒請求者が被懲戒者に対し着手金、報酬金及び予納金に充てるものとして2018年9月25日までに合計120万円を送金したにもかかわらず、破産債権者に受任通知を送付せず、破産債権者から提起された訴訟にも対応せず、破産の申立てもしないまま、音信不通になり、懲戒請求者が2022年12月26日に被懲戒者に対し解任通知書を送付し、上記委任業務を解任するとともに上記120万円の返還を請求し、2023年9月29日には被懲戒者を相手方として上記120万円の返還金等を求める紛議調停の申立てをしたが、期日に欠席し対応しなかった。

被懲戒者の上記行為は、弁護士職務基本規程第26条、第35条及び第45条に違反し、弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。

事件放置事案です。紛議調停に欠席し、対応しないことはよく量定の加重事由に挙げられています。

第一東京弁護士会 戒告

被懲戒者は、自らが有限会社Aの代理人を、懲戒請求者B弁護士及び懲戒請求者C弁護士がA社の元従業員らの代理人を務めていた未払賃金等請求事件に関し、懲戒請求者B弁護士及び懲戒請求者C弁護士が弁護士職務基本規程の利益相反の規定に違反すると即断し、2017年11月頃、知人であるD弁護士らに対し、事件記録を開示した上で、懲戒請求を働きかけ、懲戒請求書の最終文案を確認し、懲戒請求に必要な実費を負担するなどの関与を行ったところ、その際、懲戒請求を受ける懲戒請求者B弁護士及び懲戒請求者C弁護士の利益が不当に侵害されることがないよう、懲戒事由があることを事実上及び法律上裏付ける相当な根拠について、自ら調査及び検討をせず、D弁護士らに慎重な調査及び検討を促さなかった。

被懲戒者の上記行為は、弁護士職務基本規程第70条及び第71条に違反し、弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。

弁護士の名誉の尊重および他の弁護士に対する不利益行為の事案です。B弁護士及びC弁護士の行為が利益相反行為であると即断し、D弁護士に記録を開示した上で懲戒請求に関与し、慎重な調査及び検討を促さなかったたというものとのことです。しかし、D弁護士も弁護士ですから、自己の責任で調査及び検討を加える必要があると思われ、そこはD弁護士責任であるように思われます。D弁護士も懲戒手続に乗っているのでしょうか。所属弁護士会が異なれば結論が変わっていた可能性もあるように思われます。

第二東京弁護士会 戒告

被懲戒者は、エステ店オーナーの代理人として、エステ施術実施当日に予約をキャンセルする旨を通知した懲戒請求者に対し、キャンセル料等の損害賠償を請求し、懲戒請求者が消費者センターに相談した旨のメールを被懲戒者に送信したところ、交渉を有利に進めるため、懲戒請求者から伝えられた消費生活総合センターの代表者と懲戒請求者の連名を宛先として、2022年8月2日までに、守秘義務を負う上記消費生活総合センターの相談員と懲戒請求者の相談内容の開示を求め、また、上記相談員の助言内容が営業妨害や名誉毀損のおそれがある等と抗議する通告書を送付した。

被懲戒者の上記行為は、弁護士職務基本規程第31条に違反し、弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。

不当な事件の受任事案です。守秘義務を負う消費生活総合センターの相談員が受けた相談内容の開示等を求めたというものです。守秘義務は他人の守秘義務であっても侵すことはやはり問題と言えるでしょう。依頼者の利益を追求するがあまり、一線を越えてしまいがちな事例として学ぶところがあります。

岡山弁護士会 戒告

被懲戒者は、不同意性交等被告事件の国選弁護人であり、懲戒請求者A弁護士は上記事件の被害者である未成年者の国選被害者参加弁護士であったところ、2024年2月29日の公判終了後、懲戒請求者A弁護士の被害者参加弁護士としての訴訟行為に憤り、裁判所の駐車場において、懲戒請求者A弁護士に対し、「子どもの権利をどう考えとんか」「それがお前の信念か」等と一方的に攻撃的な言葉で怒鳴りつけるように大声を出した。

被懲戒者の上記行為は、弁護士職務基本規程第6条及び第70条に違反し、弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。

他の弁護士の名誉の尊重事案です。国選弁護人と国選被害者参加弁護士とのやりとりのようですが、どのような背景があったのでしょうか。公判終了後の裁判所の駐車場内でのやりとりとのことで、公判中ないし法廷内で冷静に協議するべき内容であったのかも知れません。もしくはそれを受けて、終わった後で感情が爆発してしまったのかも知れません。いずれにしても、不要で不用意な発言であったとはいえるでしょう。

東京弁護士会 業務停止3月

被懲戒者は、2022年6月14日を効力発生日とする業務停止3月の懲戒処分を受けたが、受任事件の依頼者であるA株式会社及びBについて、上記懲戒処分後も委任契約を解除しなかった。

被懲戒者の上記行為は、所属弁護士会の被懲戒弁護士の業務停止中の遵守事項に関する会規第3条第1項に違反し、弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。

業務停止中の業務事案です。業務停止中の業務は通常は業務停止になります(一部例外はあるものの)ので、業務停止のダブルパンチになり、業務の遂行に極めて大きな支障を来すことになってしまいます。バレますので、気をつけましょう。

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