司法試験を突破し、これから修習を控え、いよいよ弁護士としての第一歩を踏み出すあなたへ。 希望に燃えている時期かと思いますが、同時に「この業界で食べていけるのか」という不安も抱えていることでしょう。
弁護士として長く生き残っていくために、綺麗事抜きで最初に意識してほしい「生存戦略」を3つお伝えします。
コンテンツ
1 「弁護士ビジネス」の利益構造を冷徹に理解する
まずは、我々の仕事がどうやって利益を生むのか、その構造を分解してみましょう。 ビジネスの費用には、売上に関わらず発生する「固定費」と、売上に連動して増える「変動費」があります。
小売業などは原価(変動費)がかかるため、たくさん売っても利益率はさほど高くなりません。対して弁護士業務は、基本的に仕入れなどの変動費がほぼゼロ。典型的な「固定費ビジネス」です。 つまり、家賃や人件費といった「固定費」さえ回収してしまえば(損益分岐点を超えれば)、その後の売上はほぼそのまま利益になるという旨味があります。
「時間」と「固定費」の制約
売上は「顧客数 × 客単価」で決まります。顧客数(≒案件数)を増やせば売上が上がりますが、弁護士には「自身の投入可能な時間」という絶対的な上限があります。時間を売る商売である以上、人を雇用して対応可能件数を増やすか、客単価を上げない限り、売上の天井はすぐにやってきます。
ここで首を絞めるのが、一度上げると削りにくい「家賃」と「人件費」です。これらを高く設定すると損益分岐点が上がり、利益が出にくい体質になってしまいます。 したがって、初期の生存戦略の基本は「固定費を徹底して下げること」に尽きます。
「広告費」の罠に注意せよ
特に注意が必要なのが「広告費」です。 弁護士にとっての広告費は、本来変動費がかからないビジネスモデルに、わざわざ変動費的な要素を持ち込む劇薬です(なお、弁護士法上、成果と連動する広告費は採用できません。「より多くの案件獲得を期待して広告費を上げる」という広告費ファーストの変動費「的」モデルにならざるを得ません。)。広告費以上のリターンを出し続けるには、ある程度の規模(数)を回す必要が出てきます。 独立直後、まだ足場が固まっていない段階で広告費という名の変動費を背負い込むことが合理的か。この利益構造を踏まえて慎重に判断すべきです。
2 「何でも屋」を捨て、専門性を“決め打ち”する
修習生の方と話すと、多くの方が「マチ弁になりたい」と言います。その心は「オールマイティになんでもできるジェネラリスト」への憧れでしょう。「特定の分野に絞ると、他の客を逃すのではないか」という不安も痛いほど分かります。
かつての私もそうでした。「目の前の仕事を一生懸命やれば、専門性は後からついてくる」と言われ、あやうく20年後に「特徴のない何でも屋」になるところでした。
「何でもできる」は選ばれない
少し視点を変えてみてください。 あなたは「中華もフレンチもイタリアンも作れるシェフが握る寿司」を食べたいですか? 「眼科も皮膚科も精神科も診る医師の手術」を受けたいですか? 顧客から見れば、「何でもできる弁護士」はそういう風に見えています。
さらに残酷な現実として、この業界には「何でもできる弁護士」は掃いて捨てるほどいます。差別化できていない弁護士が巻き込まれるのは、価格競争です。 単価が下がれば、数をこなさなければならない。数を集めるために広告費をかける。するとポータルサイトで何百人も並ぶ弁護士の中から選ばれるのを待つ「ガチャ」に賭けることになり、資金力のある大手との消耗戦に突入します。
最初はハッタリでもいい、旗を立てろ
ここから抜け出す唯一の道は、他者との差別化=専門性です。 「新人の自分に専門性なんてない」と思うでしょう。本当の実力がつくのは先で構いません。重要なのは、今この瞬間から「専門性を身につける」と意識し、分野を決め打ちして磨く姿勢です。 専門性は勝手に身につきません。自ら旗を立てた人間にのみ、宿るものです。
3 「弁護士から紹介される弁護士」を目指せ
1で述べた通り、利益を残すには「顧客獲得コスト」を下げることが重要です。 広告費をかけず、かつ上質な案件を獲得するための最強のルート。それが「弁護士から紹介される弁護士」になることです。
弁護士からの紹介案件は、プロの目で「弁護士を入れるべき案件」として整理(前さばき)されているため、受任率が非常に高く、トラブルも少ない傾向にあります。もちろん、紹介料の授受は禁止されていますから、金銭的なコストもかかりません。
「〇〇といえばあの先生」という認知
では、どうすれば同業者から紹介してもらえるのか。 ここでも重要になるのが、2で触れた「専門性」です。
「何でもやる弁護士」は、同業者から見て「紹介する理由」がありません。自分でもできるし、ライバルも多すぎるからです。 一方で、「この分野は特殊だから、あの先生に任せよう」と思ってもらえれば、紹介のルートが開けます。
さらに、弁護士からの紹介を得るためには、他の弁護士に自分の専門性を認知してもらわないいけません。
専門性を磨き、尖らせること。 それが結果として、価格競争に巻き込まれず、広告費というコストもかけず、質の高い仕事が集まる好循環を生み出します。
これから荒波に漕ぎ出すあなたが、賢く、したたかに生き残っていくことを願っています。
