今回は、税理士の懲戒手続きの流れとその対策について解説していきます。
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懲戒処分の種類
税理士に対する懲戒処分は次の3種類です(税理士法44条)
・戒告(将来を戒める旨の申渡し。資格について特に制約は受けません)
・2年以内の税理士業務の停止(期間中は税理士業務はできないが登録は抹消されません)
・税理士業務の禁止(税理士登録の抹消と3年間登録する資格がなくなります)
なお、平成26年改正までは業務の停止の期間は最長1年でした。
懲戒の構成要件
税理士の懲戒においては税理士法で構成要件が定められています(税理士法45条、46条、48条の20)。
特別の懲戒
不真正税務代理(つまり脱税等に関与すること)の場合です(法45条)。
故意による場合は、2年以内の税理士業務の停止、または税理士業務の禁止になります。
過失による場合は、戒告、または2年以内の税理士業務の停止になります。
一般の懲戒
不真正税務代理の場合を除いて、添付する書面(法33条の2第1項もしくは第2項)に虚偽の記載をしたとき、又は税理士法若しくは国税若しくは地方税に関する法令の規定に違反したときは、その税理士に対し懲戒処分を行うべきとされています。
「税理士法若しくは国税若しくは地方税に関する法令の規定に違反したとき」の例は次のものが挙げられます。
国税庁HPより引用
税理士・税理士法人に対する懲戒処分等の考え方
(平成27年4月1日以後にした不正行為に係る懲戒処分等に適用)
懲戒手続きの流れ
懲戒請求者
税理士法では、財務大臣に税理士等の氏名、違反の行為や事実を通知して懲戒を求めることになりますが、懲戒請求者は次のとおり定められています。
・地方公共団体の長
税理士について 、地方税に関し、脱税相談等をした場合又は一般の懲戒に該当する行為又は事実があると認めたとき「通知するものとする」。
・税理士会
会員について 、脱税相談等をした場合又は一般の懲戒に該当する行為又は事実があると認めたとき(所属国税庁を経由して)「通知しなければならない」。
・何人も
税理士について 、脱税相談等をした場合又は一般の懲戒に該当する行為又は事実があると認めたとき「通知し、適当な措置をとるべきことを求めることができる」。
通知があった後の流れ
財務大臣は、まず対象税理士や対象税理士法人(以下、税理士等)に対し、行政手続法に基づき懲戒処分予告通知を発し、弁明書の提出を促したり、聴聞の機会を付与します。これら弁明書の提出や聴聞においては代理人を選任することができます(行政手続法16条)。
財務大臣は、国税審議会に諮問をします。
国税審議会は、税理士分科会に付託し、懲戒審査委員会において審査することになります。
懲戒審査委員において調査した結果、国税審議会(税理士分科会)に報告、議決したのち、最終的に財務大臣に答申し、懲戒処分がなされます。
懲戒処分をするときは、財務大臣が、当該税理士に、その理由を付記した書面をもって通知します。その通知が本人に送達された日から処分の効力は発生します。
したがって、異議の申立てなどをしても業務停止などの効力は停止しませんので、その間に業務を行うと新たな懲戒事由(業務停止中の業務)になります。
また、懲戒処分は官報によって公告されます。
なお、懲戒の手続きに付されたあとその手続きが終了するまでの間、税理士の登録の抹消はできません。
通知弁護士について
弁護士は、所属弁護士会を経て国税局長に通知することにより、その国税局の管轄区内において、税理士業務ができることとされています(税理士法51条)。
通知弁護士はこちらから検索することができます。
(参考)国税局長に通知を行った弁護士
通知弁護士は、税理士会に所属するわけではありませんが、税理士業務を行う範囲において税理士とみなされ、法44条から46条までの規定が適用されます(ただし、税理士業務の禁止の処分に関する部分は除きます。法51条2項。)。
他資格の業務の停止について
他資格において業務停止等の処分を受けている間は、税理士業務を行うことはできません。
税理士法43条
税理士は、懲戒処分により、弁護士、外国法事務弁護士、公認会計士、弁理士、司法書士、行政書士若しくは社会保険労務士の業務を停止された場合又は不動産鑑定士の鑑定評価等業務を禁止された場合においては、その処分を受けている間、税理士業務を行つてはならない。税理士が報酬のある公職に就き、その職にある間においても、また同様とする。
日本税理士会連合会、税理士会による懲戒処分
税理士に対する懲戒処分としては、この税理士法上の懲戒処分以外に、日本税理士会連合会会則第72条に定める訓告処分、各税理士会による懲戒処分が定められています。
税理士法による懲戒処分の件数
国税庁の発表によると、過去5年の懲戒処分の件数は次のとおりとのことです。
会計年度 | 平成28 | 平成29 | 平成30 | 令和元 | 令和2 |
---|---|---|---|---|---|
処分等件数 | 39 | 38 | 51 | 43 | 22 |
禁止 | 11 | 7 | 9 | 14 | 4 |
停止 | 28 | 31 | 42 | 29 | 18 |
戒告 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
これをご覧になると分かるとおり、「戒告」処分が過去5年間1回もありません。
さらに遡ると平成18年に1件、平成15年に5件あったそうですが、それ以外はゼロが並んでいます。
他士業を見ると、もっとも軽い戒告処分が件数が多くなっており、それが自然だと思われるのですが、税理士の懲戒処分がこのように偏る理由は不明です。
戒告相当事案が、日税連の訓告処分としてなされているのかもしれません(この処分については公開されていません。)。