弁護士向け

弁護士会の紛議調停の流れについて

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弁護士にとって、依頼者とのトラブルはできれば避けたいものです。特にお金の問題や、辞任などが絡むと任意の話し合いではうまくいかず、依頼者等から所属弁護士会に紛議調停の申立てがされることがあります。

今回は、紛議調停の手続について説明します。

紛議調停とは

紛議調停とは、弁護士法41条に基づき、弁護士の職務等に関する紛議について、その所属弁護士会において調停で解決を試みる手続です。

弁護士法第41条 弁護士会は、弁護士の職務又は弁護士法人の業務に関する紛議につき、弁護士、弁護士法人又は当事者その他関係人の請求により調停をすることができる。

全ての弁護士会において紛議調停委員会が設置されており、所属委員によって調停を実施しています。

手数料は原則無料ですが、会規によっては必要な費用を負担させる余地を残した規定を設けている会もあります。

誰が申立てをすることができるか

法律上、申立人となれる人は、
会員(弁護士、弁護士法人)
当事者その他関係人
とされています。

あくまでも、「弁護士の職務又は弁護士法人の業務に関する紛議」を対象としていますので、通常は、弁護士と契約関係にある当事者やそれに準じる利害関係人が申立人となることを想定しており、相手方などはここに含まれないのが一般的でしょう。

申立人の内訳に関する統計は弁護士白書で明らかになっていませんが、当事者が圧倒的多数であることは想像に難くありません。

弁護士会別紛議調停事件の新受件数

弁護士側から申し立てる場合

紛議調停は会員(弁護士)側から申し立てることももちろん可能です。

それどころか、弁護士職務基本規程において、弁護士は依頼者との紛議に関しては、まず紛議調停での解決を求めています。

弁護士職務基本規程26条
弁護士は、依頼者との信頼関係を保持し紛議が生じないように努め、紛議が生じたときは、所属弁護士会の紛議調停で解決するように努める。

依頼者との信頼関係が完全にこじれてしまい、明らかに調停がまとまる見込みがない場合であっても、依頼者を被告として直ちに訴訟提起することには慎重にすべきとされています(解説弁護士職務基本規程第3版 74ページ)。

紛議調停の趣旨が実質的な損害賠償請求のときに気をつけるべきこと

依頼者側から申し立てられる紛議調停の趣旨には、さまざまなバリエーションがありますが、その相当な部分を占めるのが実質的な弁護過誤として、損害賠償を求めるケースだと思われます。

統計上、依頼者の請求に必ずしも理由がない場合も少なくなく、そのような場合、弁護士自身が自分の時間を使って対応しているケースが大半でしょう。

そんなときに活用してもらいたいのが、弁護士賠償責任保険の争訟費用の填補です。

賠償責任保険普通約款第2条1項4号は「被保険者が当会社の承認を得て支出した訴訟費用、弁護士報酬または仲裁、和解もしくは調停に関する費用(争訟費用)」を保険支払いの対象としています(弁護士賠償責任保険の解説と事例)。

争訟費用を填補の対象とすることで、被保険者の適切な防御活動を保障し、過大な賠償責任の負担を防止しようとするものです。

被保険者の賠償責任がない(否定された)場合であってもこの争訟費用の支弁がなされるかという疑問もありますが、結論としては、実務上も(保険会社が相当と考える範囲で)支弁されています。

明らかに請求に理由がなく弁護士賠償責任保険の対象でないという事案においては、保険会社に報告する発想が生まれにくいのですが、問い合わせて損はありません。

なお、当然ながら代理人を選任せずにご本人が対応した場合は、弁護士費用相当額は支弁されません。

紛議調停の流れ

紛議調停が申し立てられた後の流れとしては、基本的に通常の民事調停や家事調停と大きく変わるものではありません。双方の主張書面や証拠を元に、紛議調停員が合意成立に向けて調整していきます。双方の合意が成立すれば調停成立、成立の見込みがなければ不成立になります。当然ながら審理は非公開です。

また、会員が正当な理由なく3回以上期日に出頭しないときは、委員会が会長に対して適当な措置を求める(懲戒請求等)ことができるとする会もあります。

紛議調停の処理状況

2019年弁護士白書によれば、2018年の処理件数685件のうち、成立が263件、不成立が292件、取下げが109件とのことです。他の年も増減はありますが、成立件数のほうが少ない傾向にはあります。当然ながら、不成立の理由までは明らかにはされていません。

紛議調停事件の処理状況(全弁護士会)

もっとも、弁護士会の紛議調停であるという構造上、会員側に譲歩が求められるケースが多いように思われます(もちろん、互譲しなければ成立しませんので、双方が譲歩を求められるわけではありますが。)。

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