司法書士向け

司法書士の懲戒手続きの流れと対策

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今回は司法書士の懲戒手続きの流れについておさらいし、その対策を解説します。

司法書士の懲戒手続きについて

懲戒処分の種類

司法書士が、司法書士法または同法に基づく命令に違反したときは、法務大臣は①戒告②2年以内の業務の停止③業務の禁止の処分をすることができます(司法書士法47条)。
司法書士法人に対しては、①戒告②2年以内の業務の全部又は一部の停止③解散の処分をすることができます(同48条)。

なお、業務停止の期間は、年、月、週を単位とします。

懲戒手続きの流れ

何人も法務大臣に対して「適当な措置をとること」を求めることができます(懲戒請求。法49条1項)。

懲戒請求があると、原則としてすべての案件について司法書士会に調査の委嘱がなされます(施行規則42条2項)。

司法書士会綱紀調査委員会は、これに基づき調査を行い、その調査結果を司法書士会理事会等に報告をします。その際、量定に関する意見も併せて審議、決定します。

司法書士会は、こうしたなされた調査結果を法務大臣(法務局または地方法務局長)に量定の意見を付して報告することになります(施行規則42条3項)。

この結果を受けて、法務大臣(又は委託を受けた法務局または地方法務局長)は、告知聴聞の機会を与えた上で、対象司法書士、司法書士法人に対して懲戒処分をすることになります。

この告知聴聞の機会は、公開することを求めることができます(法49条5項)。

なお、司法書士会は、所属会員が司法書士法やそれに基づく命令に違反する「おそれがある」と認めるときには、注意を促し、必要な措置を講ずるべきことを勧告することができます(注意勧告。法61条)。

除斥期間

懲戒の事由があったときから7年を経過すると懲戒処分をすることができなくなります。

何をしたらどのような処分になるのか

司法書士の処分は法務大臣の専権です。
しかし、恣意的な処分がなされてしまっては、行動の予測可能性や公平性の観点から大きな問題になることから、法務省は「処分基準」を作成し、司法書士の懲戒処分について類型化を図っています(ここが弁護士会による懲戒処分と大きく違うところです)。
司法書士及び司法書士法人に対する懲戒処分の考え方(処分基準等)

おおまかに分類すると次のとおりの傾向が見えます。

業務の禁止又は2年以内の業務の停止

・公文書偽造、私文書偽造等
・業務上横領
・名義貸し、他人による業務の取扱い
・業務停止期間中の業務行為
・報酬、費用の不正請求
・虚偽の登記名義人確認情報提供で実害が生じたもの(故意)

これらは、司法書士業務自体の信用性を故意に損なう行為といえ、もっとも重く処罰されることになります。

2年以内の業務の停止又は戒告

・虚偽の登記名義人確認情報提供で実害が生じたもの(注意義務違反)
・犯罪収益移転防止に関する法律違反を伴う本人確認義務違反で実害が生じたもの(故意)
・職務上請求用紙の不正使用
・不当誘致行為
・受任事件の放置
・秘密保持義務違反(故意)

これらも司法書士の業務の信用性を損なう行為であることから比較的重く処分されるものといえます。

1年以内の業務の停止又は戒告

・本人確認義務違反または依頼者の意思確認義務違反で実害が生じたもの
・虚偽の登記名義人確認情報提供で実害が生じていないもの(故意)
・犯罪収益移転防止に関する法律違反を伴う本人確認義務違反で実害が生じていないが、悪質なもの(故意)
・職務上請求用紙の管理懈怠等
・調査拒否
・補助者の監督責任
・預り金等の管理懈怠等
・秘密保持義務違反(注意義務違反)

これらについては、注意義務違反(つまり過失)によって実害が生じたものが中心になります。

戒告

・正当な事由のない受任拒否(簡裁代理権関係業務を除く)
・その他会則に違反する行為

項目としては少ないのですのが、おそらくもっとも広い処分内容であると思われます。

全部あり得るもの

・業務外行為(業務外の違反行為で刑事罰の対象となる行為に該当するもの)

司法書士も品位を保持する義務を負っていることから、業務外行為も懲戒処分の対象になります。
もっとも、「刑事罰の対象となる行為に該当するもの」という縛りがあることから、およそ犯罪に当たり得ないが品位を損なうような行動は懲戒処分の対象外と考えられることになりそうです(この点が弁護士の懲戒処分と大きく異なる。)。逆に、刑事罰の対象となる行為であれば足りるので、実際に刑事罰を受けていなくとも懲戒の対象にはなります。

※補足 法務省処分基準において、「司法書士等は,常に品位を保持しなければならない(法第2条,第46条において準用する第2条)ことから,司法書士等の行った行為がその業務に関連しない場合であっても,その行為が司法書士等の品位を害した場合には,法違反を理由として懲戒処分をすることができる。」との記載がありますので、必ずしも刑事罰の対象であることは処分の要件ではないと考えられます。しかしながら、この「業務外行為」の基準が存在することから、刑事罰の対象となる行為以外の業務外行為が処分の対象となるケースは稀であると考えられます(私見)・

懲戒請求にどう対応するか

先に述べた懲戒手続きの流れに従うと、事実上、司法書士会による調査がほとんどを決する場となると思われます。
したがって、司法書士会の綱紀調査委員会の調査に向けて全力を注いでいくことになりますが、司法書士の懲戒処分については、おおよその判断基準が公表されていることから、対策は比較的明確です。

事実関係とその評価について可能な限り有利な主張をする

懲戒事由の基礎となる事実が存在するか、争える余地があるかどうかを検討します。

どの類型の「違反行為」に該当するかを検討する

仮に懲戒事由に該当することが避けられない場合でも、より軽い類型にあたると主張できないかどうかを検討します。

考慮要素・情状について可能な限り有利な主張をする

類型が決まったら、次は具体的な処分の量定を決めることになります。この処分基準においては、考慮要素や複数の違反行為がある場合の考え方などの基準が明示されています。これら判断要素を熟慮して、より有利に主張できないかどうかを検討することになります。

まとめ

以上、司法書士の懲戒手続きについて流れをおさらいしてきました。

司法書士業務の中心である登記業務等の信頼を担保するための手続きですので、その信頼を阻害する行為が重く処分される傾向にあります。

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